王宮ベルベニア城下町のとある貴族邸。
１ヶ月ほど前にその屋敷から、長男の捜索願が提出された。
しかし、一向に行方が知れない。
その貴族の跡継ぎとだけあって、捜索は大規模人数で行われたが、
長男が発見されることはなかった。
そろそろ捜索にも諦めの雰囲気が漂い始めた時、
次の跡継ぎとして焦点が当てられたのが、長男の３つ年下の長女、リーアムだった。
今まで全くと言っていいほど跡継ぎとしての教育を受けておらず、
淑女としての嗜み、礼儀作法、魔法の勉強を主に習ってきた彼女にとって、
突然の帝王学の詰め込み勉強はさすがに苦痛でしかなかった。

「兄さん、どこにいるのかしら・・・」

リーアムは外の世界をあまり知らない。
移動は基本的に馬車（チョコボ）で行うため、自分の足で移動したことはほとんどない。
買い物も従者が行うため、娯楽の物ですら自分で買ったことがない。
兄の心配もあるが、何より自分も外の世界を知りたい。

そう思ったら、自然と足は動いていた。

未知の世界へ

警備員の目を盗んで外に飛び出してきたはいいものの、
さっそく問題に突き当たった。

「どうしよう、まったく地理がわからない・・・」

当初はパブや情報屋で兄の情報を聞き出して、そのまま帰る予定だった。
しかし、このままでは家にも帰れなくなるかもしれない。
さらに、街のどこに何があるのかもわからない。
街の人々は話を聞こうともせず、ただ前や下を向いて歩いていく。
通りの人の波に呑まれそうになりながら、リーアムは必死で歩いた。

ふと、路地裏に目を向ける。
街の賑やかさに反して、ゴミが散乱し、廃れていた。

そんなゴミの山の中に、人がいる。

その人物はゴミの山に背を預け、まったく身動きしない。
心配になって近づいてみると、大怪我を負っていた。

「だ、大丈夫ですか？！」

必死になって声をかけると、その人物は薄らと目を開けた。
紫色の瞳が、とても綺麗な少年だった。
そんな人を、リーアムは放ってはおけなかった。
屋敷を出る際に持ってきた杖を少年に翳し、唱える。

「清らかなる生命の風よ 失いし力とならん！ ケアル！」

瞬く間に全身の傷が癒える。
少年は意識が朦朧としていたが、血も止まり、傷も癒えたことで
意識を完全に取り戻したようだ。
驚いた顔をしてリーアムに向き直る。

「おまえ、何で、俺なんか・・・」
「すみません、見過ごせなかったので・・・」
「いや、謝ることねぇけど」

ぶっきらぼうだけど、優しい人だろう、とリーアムは思った。
もう少し話したい気持ちはあるけれど、彼女自身、行かなければならない場所がある。
静かに立ち直ると、少年に再度話しかけた。

「次は無理しちゃダメですよ。お気をつけて」

では、と少年に背を向けて歩き出そうとした。

「ま、待って！！」

突如少年に呼び止められる。
振り返ると、少年は顔を赤らめて訊ねる。

「お、お前の、名前・・・教えてくれないか？あ、俺はノル」
「リーアムと申します。ノルさん、お元気で」
「・・・リーアム・・・」

微笑み告げて、ノルの元を去った。

ノルと別れて一人街を彷徨い、やっとパブを発見して兄の行方を聞いてみたが、
一向に掴めていなうようだった。
ため息を一つついて、リーアムはパブを後にする。
ここでダメなら、近隣の町、シリルに行くしかないだろうか。
あの町には腕利きのクランが拠り所にしていると風のうわさで聞いた。
彼らに頼むのも、方法の一つかもしれない。
そう考えを巡らせながら、シリル行きの馬車を探す。

その時、誰かに腕を引っ張られ、路地裏に飛び出る。
リーアムの前に現れたのは、片手に刃物を持った男。

「お嬢ちゃん、金持ちでしょ・・・ちょっと遊ぼうよ」
「・・・！は、放してください！！」

抵抗すれど、成人男性の力には敵わない。
心の中で、両親と兄に詫びる。
勝手に外に出た、自分の浅はかさに嫌気がさし、抵抗もできなくなってきた、
その時。

「こっちだ！！！」

少年の叫び声が響くと共に、男の悲鳴が上がる。
腕が解放されたと同時に、今度は逆方向へひっぱられる。
少年が先導して駆ける後を引っ張られながら、リーアムも走る。
人通りの少ない、開けた場所まで辿り着くと、
そこで手を離され、顔を合わせる。
緑のローブ、バンダナをした、同い年くらいのシーフの少年、ノルだった。

「ノルさん！！」
「大丈夫か？ごめんな、いきなり手握って走り出しちまって」
「いえ、こちらこそありがとうございました・・・助かりました」

ノルの顔は走った後の息切れなのか、それとも別の意味でなのか、赤く染まっている。
あの後心配になって、せめて家まで送ろうと、追いかけてきてくれたらしい。

「用事は済んだのか？なら早く帰ったほうがいい。ご両親もきっと心配してる」
「いえ、私、帰りません。」

驚いた顔をされる。
あまり意志の強い人間だと思われてなかったのだろう。
そこで初めて、リーアムは自分が今外に出ているかを話した。

「だから私、兄の行方を確認できるまで、帰れません。」
「それでシリルに行こうってのか？」
「はい。もし馬車の場所をご存知でしたら、教えていただけませんか？」

ノルは最初、シリルに行くのをやめさせようと思っていた。
女の子の一人旅、しかも土地勘があまりないなんて、心配すぎる。
しかし、リーアムの真剣な瞳に、断るなんて言うことはできなかった。

「しょうがねぇな・・・わかった、こっちだ」
「ありがとう、ノルさん」

微笑みを向けられて、ノルの顔が耳まで真っ赤に染まった。

「ここから乗れば、１日でシリルに着く。気をつけろよ」

俺は仲間がこの街に来てるから、一緒には行けない、すまない、と
ノルは申し訳なさそうに言った。
リーアムは彼に感謝をし、決心して馬車に乗り込む。
きっとしばらく家には帰れないだろう。
両親も、従者も、みんな自分を心配するだろう。
それでもリーアムは血を分けた唯一の兄の行方が気になってしょうがなかった。
見つけて一緒に帰ろうと、そう決意した。

馬車は順調に進み、無事にシリルの町に着いたリーアムは、
町の人々の話を元にパブを訪れた。
この町には有力クランのひとつであるグレートクランが拠点としているらしく、
奥のテーブルにそのクランらしき集団が固まっていた。

「あの、すみません、グレートクランの方々ですか？」

そう声をかけると、変に青髪の少年が反応した。

「ははははい？！ぼ、僕ですか？！」
「どう考えても俺らに依頼だろ・・・青春小僧め」

少年は茶髪の青年に頭を小突かれた。
再度青年が口を開く。

「すまないな。いかにも俺たちがグレートクランだ」
「私はリーアムと申します。人を、兄を探しています。チェーザレという名です」
「チェーザレ？？」

その場にいたクランの面々が声を揃えて言った。
知らないようでなはい雰囲気。
その時、奥から一人の黒髪の青年が現れた。
一斉に皆がその青年の方向を見る。

「何だ、皆して。私の顔に何かついているか？」

青いローブに身を包んだ黒髪の青年。
それは、まさにリーアムが探していた兄その人だった。

「兄さん・・・！！！」
「リーアム？！何故ここに！！」

感動の再会。
その場にいた全員がそう思った。
しかし、彼女の行動は驚くべきものだった。

思い切り、兄の右頬を杖でぶん殴った。

チェーザレがぶっ飛ぶ。
茶髪の青年を筆頭に、全員が焦った顔をする。
人のよさそうな彼女は、完全に、ぶちギレていた。

「兄さん、お話があります」

その時のリーアムの様子を、チェーザレは
「目に光がなかった。あんな冷たい瞳の妹を見たのは初めてだ」
と後に語った。
殴られた後、チェーザレは強制で外に連行され、小一時間説教を食らった。
そこで自分の言い分を聞かせ、なんとか納得してもらったチェーザレは、
せめて実家には連絡してほしいというリーアムの願いを聞き入れ、
当主となるにあたって見聞を広めていきたいという言い訳も添えて、
大人しく家へ連絡を入れた。

「もう気が済んだだろう。早く帰りなさい」
「嫌です！」
「また何を言うんだお前は・・・」
「兄さんが見たいと、信じたいと思ったものを、私も同じ視点から見てみたくなりました」

だから私もこのクランに置いてください、と周りの者に訴えた。
真っ先に反応したのは、青髪の少年、アングル。

「はい！僕大賛成！！白魔法のプロとかいないし！」
「下心丸見えだが、白魔法の使い手は貴重だな」

茶髪の青年、エメットもそう述べる。
チェーザレは始終眉間にしわを寄せて口々に賛同の意を述べる仲間たちを見まわしていたが、
クランのリーダーであるモンブランやマーシュにも言われ、とうとう折れたのだった。

「私の傍から離れるなよ、リーアム」
「はい。ありがとうございます、兄さん」

その日一番の笑顔を兄に向けて、リーアムは正式にクランメンバーとなった。
今後彼女も大変な騒動に巻き込まれていくのだが、
この時は誰もがそう思ってもおらず、ただ新しいメンバーを祝福したのだった。
 

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